トップメッセージ

代表取締役社長 社長執行役員 國島 賢治代表取締役社長 社長執行役員 國島 賢治

「はかる技術」と
「つなぐ技術」を活かし、
収益性向上と社会課題の
両立を目指す

代表取締役社長 社長執行役員
國島 賢治

<予測不可能な環境の変化への対応>

昨今、私たちは予測不可能な環境の変化に直面しています。新型コロナウイルスのパンデミックは想定されていなかったリスクであり、その場その場での対応が求められました。しかしその経験を通じて、企業としての対応力やノウハウを少しずつ蓄積してきました。また、アメリカのトランプ政権下の突然の関税導入のように、急激な変化も起こりえる中、企業として耐性を持ち、柔軟に適応していく力が求められています。

そうした中、私がより本質的な経営課題と捉えているのは、中長期的に進⾏する構造的な変化です。これからは労働人口の減少による人手不足、働き方や働く意識の多様化、カーボンニュートラルへの対応、さらには地政学的リスクを背景とした資源の確保の困難さに直面することになります。その際、限りある経営資源(ヒト・モノ・カネ)をどのように有効活用していくかという問題意識を持っています。

国内に限らず、最近ではASEAN諸国でも人口減少の兆しが見られ、これは社会が成熟する中で避けがたい流れともいえます。実際、日本では女性の社会進出などにより就業者数は一時的に増えているものの、労働力不足はむしろこれからが本番と認識しています。働く価値観も従来と変わる中、愛知時計電機としては、若手社員の成長と活躍を促すとともに、高齢者の活用に取り組み、現在65歳までの雇用制度をいかに延ばし、会社の中で長く活躍してもらうかという視点も一つの考え方となっています。

加えて、デジタル技術の進化・普及も重要です。IoTやAI、ビッグデータなどを活用したDXの推進について、当社ではプロジェクトを立ち上げています。これらの取り組みは効率化のみならず、仕事のやり方そのものを変えてもらう大事なプロセスと思っています。省人化やデジタル化への対応は難しい課題ですが、会社を強くする機会と捉えています。

<市場・事業領域の拡大>

当社の他社にない強みは、水道メーターなら羽根車式、電磁式、ガスメーターなら膜式、超音波式といった複数の計測技術を提供していることです。電池駆動の電磁式水道メーターを長年扱っていますが、他社の追随を許していませんし、超音波式の技術も向上しています。さまざまな現場のニーズに対応した最適な製品やサービスを柔軟に提案できる点が、当社ならではの強みであると考えています。

それを可能としているのが、開発から、生産、販売、施工までを自社で一貫して担う体制です。全国に展開する営業担当者は全員が当社社員であり、現場で得た課題や知見が開発部門にフィードバックされ、技術のブラッシュアップや開発力向上に活かされています。

さらに計測分野における価値創出の取り組みとして、データ配信サービス「アイチクラウド」を展開しています。ガスメーターや水道メーターといった計測機器の販売にとどまらず、その枠を一歩越えて、クラウドやIoTサービスといった新たな分野への展開を進めています。

計装分野においても、できる仕事の範囲を着実に広げています。工事の受注において実績を積み、各種資格の取得を促すなど人材育成に注力して生きたことで、これまでよりも大きな規模の案件に携わることが可能となりました。受注ベースでは確かな成果が見え始め、今年度の売上に寄与する見通しです。

<グローバル展開の加速>

当社の海外市場での売上は全体の10%に満たない状況ですが、グローバル展開も重点施策の一つです。ただ、日本国内で使用される汎用品では海外仕様に合致していなかったり、価格面で差があるため、当社の技術優位性が高く、他社との差別化が図りやすい製品の拡販を進めています。中国においても、ガスメーターの拡販を進めており、従来の販売代理店網に加え、深圳に現地パートナーとの合弁会社を設立し、ガスメーターの生産・販売を開始しました。この体制により、これまで取引のなかったガス会社グループへの納入も可能となり、ガスメーターの販売チャネルが拡大しています。実際、2024年度は、中国経済の減速の影響を一時的に受けながらも、合弁事業の貢献により計画達成に向けた進展も見られました。

水道メーターについては、タイやベトナムなどASEAN地域での販売が進んでいます。現地の購買力が向上していることから、比較的付加価値の高い当社の電磁式水道メーターでチャレンジできる市場になりつつあると感じています。

一方で、特に中国は製品開発から市場投入までの動きが早く、これまでどおりの国内の手法では間に合いません。国や地域によって異なる仕様への対応が求められる中、海外でのスピード感が日本と全く違うことが課題です。

また、今後はASEAN地域でのさらなる成長を期待しています。家庭用の水道メーターでは激しい価格競争にさらされながらも、当社の技術力や品質が強みとなり、購入いただいたお客様から高い評価をいただいています。当社の技術力にはまだ多くの可能性があると信じ、現地のお客さまとの情報交換を重ねながら市場を開拓しています。

<将来に向けた成長投資>

スマート化の動きは自社のビジネスモデルの大きな変化点になる可能性があると考えています。ただし日本におけるスマート化は海外に比べ圧倒的に遅れをとっており、その対応は急務です。この点からもスマート化への投資を積極的に⾏う必要があります。また、これに加えて海外の成長分野に向けた設備増強も進めてまいります。

こうした設備投資以上に私が重視しているのは、人的資源への投資です。先ほど申し上げた計装分野の大規模案件の受注において、施工現場での対応力や品質管理を支える「人」の力が重要となっています。当社では必要な人材を厚く投入し、さまざまな資格取得の支援をする取り組みを進めていきます。建設業界では、働き方改革が進むと同時に求められる品質の水準が高まっており、当社の技術優位の提案で受注に結び付けたいと考えています。また優秀な人材の採用や、70歳までの雇用延長も進める必要があります。固定費は抑制したいと考えていますが、日本国内における事業基盤を踏まえると、利益をしっかりと生み出せることを前提に、削減に向かわないよう留意しています。

<非財務資本を活用した持続可能な成長>

私は長く人事部門に在籍しましたが、その経験から言えるのは、人事制度を変えるだけでなく、その制度について管理職・被評価者双方に理解してもらうことが大切ということです。当社では、ウェブを活用した研修に加え、リアルの場では新任管理職を対象とした集合研修を通じて、制度の趣旨や運用について丁寧に説明する機会を設けています。その取り組みが、エンゲージメント向上につながると考えています。

近年、ジョブ型雇用の導入が盛んになっています。業務の専門性を否定はしませんが、当社ではメンバーシップ型の人事制度がふさわしいと考えています。つまり社員が会社の中でさまざまな仕事を経験し、勉強し、成長していく環境を整えていきます。今の企業では珍しくなった確定給付型の企業年金を維持しているのも、会社が運用リスクを負い、社員とその家族の安心を支える企業文化を大切にしているからです。

もちろん仕事の成果は重要です。当社は、若手社員でも成果を上げれば早期に昇格できますし、特に管理職は、実績に応じて昇格のスピードも上がる仕組みを整えています。

また、日本の製造業全体に言えることですが、現場力が弱っていると感じます。今後はDXの力を借りて、人手による検査や保全の工程を効率化しながら、現場力の強化を図っていきます。特に監督職に対し、単なる作業者ではなく、人をマネジメントし、現場を改善する力をつける育成をしていきます。

私は社長に就任し4年⽬となり、次世代の人材を育てなければいけないと考えています。将来を期待する社員に対して、あえて分野が大きく異なる部署に配置転換を⾏っています。それは、これまでと異なる経験をした時、どう考え、対応するかという力が養われ、経営を担う存在になると考えているからです。当社の事業規模や業態においては、外部から経営者を招き入れるより、内部で次のリーダーを育成する方が適していると考えています。

社会関係資本である、パートナーづくりも強化しています。長年当社を支えて下さっている協力会社の皆さまとの関係を深めることの重要性は言うまでもなく、海外展開にも販売パートナーが欠かせません。計装分野では大規模な案件を確実に受注するための工事会社や設備業者といったパートナーをしっかり確保することが不可欠です。これからもパートナーの皆さまと力を合わせながら事業の拡大を⽬指してまいります。

<ステークホルダーとの対話を通じて>

中期経営計画2026で掲げる⽬標を達成するには、各部門の戦略が同じ方向を向いていなければなりません。その時重要なのは、トップと現場、現場同士、社員同士の間で良好なコミュニケーションを築いていることです。私は、営業や製造部門の経験が少ないこともあり、実感を伴った経営判断ができるよう、現場での対話を重視しています。例えば毎月の報告を読むだけでなく、営業の視点からこう書かれているが生産側はどう捉えているのか、またその逆も含めて、現場に出向き、直接話を聞いて理解することが効果的だと考えています。

その上で、さらなる飛躍を⽬指すには、売上の拡大だけでなく、しっかりと利益を確保できる会社になっていかねばなりません。それは単に利益の追求ではなく、127年の歴史を経てきた当社が、150年に向けて成長していくために、必要な人材の確保や設備投資、さらには株主の皆さまへの適切な還元を継続できるようにするためです。

これからも株主・従業員など多くのステークホルダーに誠実に向き合い、持続的な企業の成長に努めていきます。一層のご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

ステークホルダーの皆さまへ

持続可能な成長を続けていくためには、事業の強化だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)の取り組みにも一層注力する必要があると考えています。特にガバナンスに関しては、プライム企業として透明性を高め、高度なガバナンス体制の構築に努めてまいります。

2022年に続き、2024年には二人目の女性社外取締役を迎え入れるなど、取締役会の多様性を実現するための取り組みを進めてきました、今後もさらに実効性を高めてまいります。
株主の皆さまをはじめ、お客さま、取引先、地域の皆さま、そして従業員を含む多くのステークホルダーの方々に支えられ、当社がこれまで事業に取り組み、成長を続けてこられたことに深く感謝申し上げます。

当社がこれまでに培った「はかる技術」と、磨き続けた「つなぐ技術」を存分に活用しながら、これからも新しい価値を創出し、サステナブルな社会づくりに貢献してまいります。今後とも一層のご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。