水の流れを超音波で可視化 偏流や脈流に対応する研究開発

超音波を利用して配管内の流速分布を直接計測する流量計の研究を行っています。

研究開発

今や流量計は、ガスや水道の計量、天然ガス・石油の取引、工場での流量管理、畑作での農水管理など 幅広い分野で利用されています。そして正確な流量を測ることは、公正な料金取引、製品の歩留まりや性能向上、工程のリスク管理、省エネやコストダウンなど、流量計の計測値は様々な分野で重要な役割を担っています。
世の中には様々な流量計が存在し、計測する流体や環境に合わせて適切に選択する必要がありますが、そのほとんどが安定した流れを前提としており、偏流や脈流があっても正確な計測が可能な流量計は多くありません。
そのなかで超音波流速分布式流量計※は、超音波のドップラー効果を利用して配管内の流速分布を直接計測する技術で、偏流など軸対象でない流れに対しても正確な計測を行うことが可能です。
※スイス連邦チューリッヒ工科大学特別研究員,北海道大学名誉教授の武田靖氏が提唱

計測原理

超音波流速分布式流量計は、流体に超音波を照射し、流体内にある反射物からのドップラー信号を検知して流速分布を計測する技術です。そのため、流体内に超音波を反射する物体(気泡や微小なゴミなど)が流れている必要があります。照射した超音波が流体内の物体に反射した時に、ドップラー効果によって照射した超音波信号の周波数から少しだけ偏移した周波数が返ってきます。その偏移量は反射物の移動速度(≒流体の流速)に相当するため、発信信号と受信信号の周波数の差を検出することで、流速を算出することが可能です。また、超音波を照射してから反射物からの信号が返ってくるまでの時間がセンサーから反射体までの距離に相当するため、反射物の位置が特定できます。つまり、複数の反射物の位置と速度をプロットすることで、流速分布を求めることができるのです。

残響を抑えた超音波センサー

超音波センサーを発信させる時は、電気エネルギーを振動エネルギーに変換させて音波を発信するのですが、電気エネルギーの供給を停止しても超音波センサーの振動はすぐには収束しません。これを「残響」といいます。今回の計測方式では超音波の発信と受信を一つのセンサーで行うため、受信信号に発信時の残響が重畳すると、計測結果に誤差が生じてしまいます。そこで必要な信号を確保しつつ残響を抑制するため、超音波センサーを構成する圧電体や充填剤の材質など基本構造から見直しを行うことで、残響の少ない超音波センサーを実現しました。

微小な周波数偏移を検出可能なシステム

ドップラー効果によって偏移する周波数は、最大でも超音波センサーの基本周波数の数%程度です。そんな微小な周波数偏移を検出するには、高SN比の信号と周波数偏差を算出する演算部が必要になります。SN比の高い受信信号はバンドバスフィルタと低ノイズアンプを備えたパルサレシーバにて、演算部は東京工業大学の木倉宏成准教授、東京海洋大学の井原智則助教の技術指導のもと、自己相関法をベースにした独自のアルゴリズムにて実現しました。

研究者の声

■限られた時間の中で成果を上げる

研究を始めた当初は実験設備が共同研究先にしかなかったため、名古屋-東京を往復する生活でした。私にとって未知の分野であり、限られた時間の中で成果を上げる必要があったため、プレッシャーもありましたが良い経験となりました。
この超音波流速分布計測技術は、目では見ることのできない流体の動きを可視化できる高いポテンシャルを持った技術だと思います。今後も技術の向上、並びに実用化に繋げられるよう邁進していきます。

■試作を繰り返し行うことで実現に近づける

私の主な担当は、超音波センサーの設計でした。本テーマには途中からの参加であったため、超音波流速分布計測技術について一から学び、どんな性能の超音波センサーが適しているかについて先輩や上司に助言をもらいながら、設計を進めました。そして、試作を繰り返し行うことで、超音波流速分布計測に適した性能を持った超音波センサーの実現に近づけることができました。

■一から新しい超音波センサーを開発

超音波センサーの設計担当者として研究に携わりました。配管の外側から流体内に超音波を入射させることや、受信した超音波信号からドップラー信号を検出することなど、これまでの弊社の知見にはない計測原理であるため、一から新しい超音波センサーを開発する必要がありました。そのため、機能を実現するのに必要な設計項目だけでなく、出来上がった試作センサーの良し悪しを判断するための評価項目や基準値、評価方法までも自分たちで決めていかなければならないなど、手探りの部分が多く、非常に苦労しました。
今回得られた知見を蓄積し、また新たな超音波センサーの開発へと活かしていきたいと思います。

■分からない事ばかりからスタート

研究当初、私自身の経験がまだまだ浅いこと、計測方式が既存製品と異なることから分からない事ばかりでした。しかし、試作検証の中で多くの助言をいただき、知見を深められたため、今ではとてもいい機会をいただけたと思っています。これからも本研究および既存製品の機能向上に努めていきたいと思います。


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愛知時計電機株式会社 経営企画室 青井


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