水素の流れを測る 超音波で測る

来るべき水素社会に向けて、水素ガスメーターの研究を行っています。

研究開発

水素を空気中の酸素と反応させて走る燃料電池車が実用化され、街には水素ステーションも増えてきています。一般家庭でも、パイプラインで供給された水素を利用する家庭用純水素型燃料電池が実用化される段階に来ています。この時供給される水素は、都市ガスやLPガスと同様に、公正な料金取引のための正確な使用量の計測が必要です。当社は来るべき水素社会に向けて、都市ガス・LPガス向けに開発した超音波ガスメーターの技術を応用した「水素ガスメーター」の研究をいち早く行ってきました。

水素は都市ガス・LPガス(以下燃料ガスといいます)と比較して信号の強度が約1/4であり、超音波が最も伝わりにくい気体のひとつです。また音速が約4倍速いという特性を持っています。超音波の伝わりにくさは、SN比を悪化させ、また音速が速いことは、計測のバラツキが大きくなることになり、これらの特性はいずれも計測精度を悪くする原因となります。さらに通常のガスメーターは外部電源を必要とせず内蔵電池のみで10年間駆動していますので、水素ガスメーターも内蔵電池で10年間駆動させることを目標にしました。「水素ガスメーター」はこれらの課題を解決し、通常のガスメーターと同等の精度や使い勝手を目指して開発されました。

ノイズの除去

水素ガスメーターでは、超音波の強度が弱くなり信号が伝わりにくいという特性から、通常のガスメーターでは全く問題とならないレベルのノイズが計測性能に影響します。この課題に対し、発信電圧を通常のガスメーターより大きくし、かつ増幅率を高めることで対応しました。しかし単純に増幅率を上げるだけではノイズ成分も増幅してしまいSN比の向上にはつながりません。そこで次の工夫によりこれらのノイズ成分を除去し、SN比の向上を図りました。

ノイズの除去

■ 筐体ノイズの除去(特許登録済)

超音波を用いた流量計測では、計測対象の流体を伝播した超音波信号以外にも筐体を通じて伝搬する超音波が存在し、超音波センサーはそうした邪魔な超音波も受信してしまいます(これを筐体ノイズといいます。)。
燃料ガスや空気では、超音波信号の大きさに比べて筐体ノイズが十分に小さいことと、筐体ノイズの伝搬速度の方がはるかに速く、超音波信号と筐体ノイズを時間軸上で分離することが容易なため、計測に対する大きな問題にはなりません。
しかし、水素では超音波信号が小さいことから筐体ノイズが相対的に大きくなり、また音速が速いことから超音波信号と筐体ノイズとの時間軸上での分離が難しくなるため、計測に大きな影響を与えることになります。
そこで、図に示すように筐体形状を複雑にし、伝播経路を長くすることで筐体ノイズの減衰を促進させ、筐体ノイズの影響を極限まで抑えた計測を可能にしました。

■ 筐体ノイズの除去(特許登録済)

■ 発信時ノイズの除去

水素ガスメーターでは超音波信号が小さいため、燃料ガスでの計測では問題とならなかった電気的ノイズの影響を受けてしまいます。特に超音波信号の発信回路と受信回路の物理的な距離が、電気的ノイズ(発信時ノイズ)の大きさに影響を与えることが判りました。このため回路パターンを見直し、発信回路と受信回路を離すことで発信時ノイズの低下を図りました。

■ 発信時ノイズの除去

計測の高分解能化

超音波で流量を測るには、上流から下流、下流から上流に超音波が発信されて信号を受けるまでの時間(到達時間)の差を正確に測る必要があります。通常のガスメーターではこの到達時間の差を複数回計測し、それを処理した値からより正確な到達時間を割り出しています。しかし水素の音速は燃料ガスや空気より約4倍も速いため、通常のガスメーターと同じ測定回数で到達時間を測ると計測値のバラツキが大きくなり、測定精度が悪くなります。そこで十分な精度を確保するために、通常のガスメーターの数十倍のデータを集計し、平均化処理をすることで精度を確保しました。

電池で動かす

通常のガスメーターは内蔵電池のみで10年間駆動しています。水素ガスメーターも同じく電池のみで10年間の駆動を目指しました。しかし水素を測るための工夫である、発信電圧を上げて超音波信号の強度を上げることや、測定精度確保のために測定回数を多くすることは、通常より多くの電気を使用することになります。そこで消費電流低減技術をさらに磨くことで、外部電源を必要としない内蔵電池のみで動く水素ガスメーターを実現しました。

■ 消費電流を抑えた超音波信号の発信(特許登録済)

超音波の超音波を発信する際には、電池電圧の3Vより高い電圧を昇圧回路にて生成し、超音波センサーに印加しています。しかし、電圧を上げるほど消費電力が増加します。このため超音波センサーへの電圧の印加方法を改善し、従来の半分の昇圧で十分な発信パルスを生成できるように昇圧の効率を上げることで消費電流を低減しました。

■ 消費電流を抑えた超音波信号の発信(特許登録済)

■ 回路の動作時間を極限まで減らす(特許登録済)

超音波ガスメーターでは、消費電力低減のため、動作が必要な時のみ回路の電源をONし、動作が必要ない時はOFFして節電しています。水素用ガスメーターではこの節電動作を従来よりもさらに細かく管理することで更に消費電流を低減しました。

■ 回路の動作時間を極限まで減らす(特許登録済)

開発者の声

■ 水素ガスメーターの開発では他にもどのような課題・発見があったでしょうか?

この取り組みを始めた当初、「水素」を超音波で測ることに対する情報が圧倒的に不足しており、試験をしても予期せぬ結果の連続でした。例えば、空気では問題なく測れており、水素ではその1/4の信号強度が得られると予測していたところ、水素を測った途端に超音波信号が消えてしまう、という現象が起こりました。この原因は流路のある部分に僅かに隙間があったためということが判りましたが、この隙間は音響に関する教科書や文献からは全く問題のないレベルのものでした。このように教科書や文献から得られる理論値をあてはめても実際にはその通りに行かない、という苦労が多々ありました。逆に通常のガスメーターでは流速が速くなると超音波信号が小さくなるのですが(超音波信号の流速依存性)、水素で測った場合には信号強度は流速にほとんど依存しない、ということも判り、かえって設計が楽になった部分もありました。

■ さらにそこから、どのような対応、解決をしましたか?

超音波がうまく伝わらない原因が隙間にあったことは、たまたま別の試験のため隙間を埋めたときに信号強度が回復していたことで判りました。このように情報が不足している中では、ありとあらゆるデータやその解析結果が、相関しながらいろいろな課題解決のためのヒントになることを痛感しました。

■ さらなる改善点や今後の改良をお聞かせください。

現在、実際にパイプラインで水素を供給して稼働する純水素型燃料電池の実証試験において水素ガスメーターを設置し、実運用でのデータを収集しています。この他にも水素ガスメーターを設置する計画があり、これらから得られたデータと、当社が現在までに培ってきたガスメーターの技術とを組み合わせ、更に新しい「水素ガスメーター」を来るべき水素社会に向けて提案していきたいと考えます。

関連情報

山口県周南市で実施されている、「地域連携・低炭素水素技術実証事業」(環境省委託事業)にて、実証事業参画者の岩谷産業株式会社様のご協力により、2016年6月から当社の水素ガスメーターを設置し実運用でのデータ収集を行っています。