スマート水道メーターのデータ活用

高齢者単身世帯の生活パターン変化検出方法の研究を行っています。

研究開発

近年、高齢化率の高まりとともに単身世帯も増加の傾向にあります。高齢者単身世帯の増加に伴い、孤独死が社会問題となり、様々な見守りサービスが提供されています。健常者と要介護者の中間に相当する状態(フレイル)をいち早く検知し、通知を行うことは、迅速な治療を促すことができ、社会問題の解決に繋がると考えられています。
このような背景から当社は、スマート水道メーターから取得できる1時間毎の水道使用量データを用いて、フレイルを検知する仕組みの構築を目指して研究を行っています。

フレイル検知の予備検討として「水道使用量データを用いた生活パターンの変化の検知」に着目し、手法は以下の考えに基づく事としました。

 ・水道使用量データは生活と密接に関連し、人為的にのみ生じる指標であることから、生活パターンの分析に適している。
 ・フレイルと生活パターンの変化は関連性がある。

また、本研究は静岡県掛川市 都市政策課様のご協力の下で実施した実証実験で得られた水道使用量データを用いています。実証実験では、各需要家様宅にスマート水道メーターを設置し、普段通りの生活をお過ごしいただいた状態で水道使用量データを取得しています。

検知手法

本研究では、生活パターンの変化とフレイルには関連性があるとの考えに基づき、需要家の水道使用量データから生活パターンの変化あり/なしを検知する手法について検討を行いました。
水道使用量データは需要家の生活パターンと関連するため、同じ需要家の水道使用量データから得た期間Aの生活パターンと、期間Bの生活パターンを比較し、変化の有無を確認することで、「水道使用量データを用いた生活パターンの変化の検知」に取り組みました。

入院等の体調変化が報告されておらず生活パターンの変化がないと予想される需要家(以下、健康需要家とする)であっても、毎日完全に同じ生活を繰り返すわけではありません。健康需要家の水道使用量データを1日分ずつ比較しても、日による違いがあり、取得した水道使用量データから直接生活パターンを抽出することは難しいことが分かりました。

このような経緯から、生活パターンの変化あり/なしを検知するには、水道使用量データを生活パターンが抽出できるデータに変換し、変換後のデータから生活パターンの変化を機械的に判定する、という2段階の処理が必要と考えました。

 1段階目:水道使用量データから生活パターンを抽出できるデータに変換する処理。【変換処理】
 2段階目:変換したデータで生活パターンの変化を機械的に判定する処理。【判定処理】


変換処理(1段階目)、判定処理(2段階目)について、説明します。

①変換処理

水道使用量データから生活パターンを抽出できるデータに変換する処理です。

まず、水道使用量データを時間帯ごとに1か月単位で平均化する「平均水道使用量」という変換処理を検討しましたが、「平均水道使用量」では月ごと(季節)のばらつきが大きく出ることがわかりました。このばらつきは、健康需要家の水道使用量データから変換した「平均水道使用量」にも見られました。(図2参照)、生活パターンの抽出には「平均水道使用量」ではなく、より適切な変換処理をしたデータが必要と考えました。

そこで水道使用量データに対して様々なデータ変換を試みた結果、ある閾値A以上の水量を使用した日の割合を1か月単位で時間帯ごとに計算し、水使用の頻度として求める「平均水道使用率」という変換方法を編み出しました。(特許出願済)
「平均水道使用量」とは異なり、健康需要家の水道使用量データから変換した「平均水道使用率」では月ごとのばらつきが見られない結果を得られるようになりました。(図3参照)
そのため生活パターンの抽出には、「平均水道使用率」が適していることを確認することができました。よって、次に説明する判定処理においては、「平均水道使用率」を用いることとしました。

①変換処理

②判定処理

平均水道使用率が変化したかどうかを判定する処理です。

図3(変化がない)と図4(変化がある)のグラフを見比べると、図3の方がグラフにまとまりがあるように見ることができるかと思います。
判定処理は、人間が直感的に感じること(ばらつきがあれば変化があり、まとまりがあれば変化がない)を、機械的に判断します。(特許出願済)
平均水道使用率は生活パターンを抽出したものなので、平均水道使用率の変化をみることで、生活パターンの変化あり・なしを判定することとしました。

②判定処理

平均水道使用率の変化を見るためには、グラフの縦軸(振幅)と横軸(位相)の変化を見る必要があります。本研究では、変化を測る指標として以下2つを採用しました。

指標1:一般的な相関係数として知られる「ピアソンの積率相関係数の定義式」で求めた相関度
採用理由:データの位相的な変化の検知に優れているため

指標2:時系列データの類似度を計算する方法として知られる「動的時間伸縮法」で求めた類似度
採用理由:データの振幅的な変化の検知に優れているため

これらの指標を用いて、平均水道使用率から変化を判定する流れを図5に示します。

指標を閾値Bと比較することで、平均水道使用率が変化したかどうかを判定します。
本研究では、図4に示す3種類の生活パターンの変化について、相関度と類似度を用いて、変化が認められる月同士を比較することで検出可能かどうかを検討しました。各パターンについて、矢印で示した部分が変化を表しています。また図4に示す各データは異なる需要家のものです。
図5の判定処理を用いて、2か月分の平均水道使用率同士の比較を行いました。
図4においては、異なる色の線1本が1か月分の平均水道使用率に相当するので、異なる色の線同士を比較しています。

判定した結果を表1にまとめました。相関度、類似度を測る指標を用いることで、水道使用量データから生活パターンの変化を機械的に検出、判定できることが確認できました。
指標により検出可否が分かれるパターンがあるため、生活パターンの変化の検出には、2つの指標による複合的な判定がよいと考えられます。

類似度計算時の工夫について

「②判定処理」で説明したとおり、2つの波形の類似度を計算する際は「動的時間伸縮法」を用います。

「動的時間伸縮法」では2つの波形の各点の距離を総当たりで計算し、距離の総和が最小となる組合せを全パターンの中から見つけ出すことで類似度を算出します。
波形間の距離の総和が大きいほど、類似度は小さくなり、振幅の変化ありと判定されます。ある需要家の平均水道使用率データ1および2(以降、データ1、データ2と記載)に対して、動的時間伸縮法を適用した結果を図6に示します。
これはデータ1とデータ2を比較したもので、緑の枠はデータを比較した時間帯、点線は類似度の計算に利用された2データ間の距離を表しています。

類似度計算時の工夫について

図6に示すデータ1とデータ2の振幅は明らかに変化していますが、全体(図6の緑枠区間)に動的時間伸縮法を適用すると、2データ間の類似度が閾値を超えてしまい、変化を検出できないことがわかりました。これは、データ2の19時付近の局所的な変化により、データ間の距離の総和が小さくなることで、類似度が想定より大きくなるためです。

そこで、平均水道使用率を一定の時間間隔で区分けし、区間ごとに動的時間伸縮法を適用する方法を編み出しました。
区間の境目で平均水道使用率に振幅の変化があった場合を考慮し、区間同士が重複するように設定しました。(特許取得済、図8参照)
設定した区間ごとにデータ間の距離の総和を計算することで、別の区間に存在する局所的な平均水道使用率の振幅の変化の影響を除外することができ、適切に振幅の変化を検出できると考えられます。

図6の平均水道使用率に対して上記区間分けを行った上で、あらためて図4に従い、類似度を算出しました。算出された類似度は閾値以下となり、データ1とデータ2の振幅の変化を検出できることが確認できました。
以上の工夫により、動的時間伸縮法を用いて算出した類似度から、平均水道使用率データの振幅変化を機械的に検出できることが確認できました。

研究者の声

■スマート水道メーターのデータを用いた生活パターン変化検出手法の研究ではどのような課題、発見があったでしょうか?

前述したように、スマート水道メーターのデータをそのまま用いても生活パターンを抽出することが難しいという課題がありました。
試行錯誤の結果、水道使用量データではなく、ある閾値以上の水量を使用した日の割合を計算し、水道使用の頻度として求める平均水道使用率へ水道使用量データを変換することで、生活パターンを抽出できるということが発見できました。

■さらなる改善点や今後の改良をお聞かせください。

より多くのデータを観察・分析することで、生活パターンの変化の検出精度向上を目指すとともに、健康状態の変化、健康な人と要介護者の間の状態(フレイル)の検知に繋げられないか模索していきたいと考えています。

最新技術の研究開発に関するお問い合わせ



愛知時計電機株式会社 経営企画室 青井


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